建設キャリアアップシステムとは何なのでしょうか。このシステムは技能者のあらゆる情報を管理するもので、2019年に運用を開始しました。
今回は建設キャリアアップシステムの導入目的やメリット、課題点を解説します。
建設キャリアアップシステムって何?
建設キャリアアップシステムはどういったものなのでしょうか。
建設キャリアアップシステムの概要
建設キャリアアップシステムとは、技能者の資格や就労状況、社会保険加入状況を建設業で一括管理するものです。
建設業界では、技能者の高齢化が進んでいます。建設業はインフラの整備や自然災害による復旧工事などの役割があり、建設業の衰退は国民の生活に大きな影響をもたらします。
建設業が引き続き発展していくためには、若者の技能者育成や処遇の改善が不可欠です。技能者の保有する資格や就労履歴などを登録・視覚化する「建設キャリアアップシステム」の運用が2019年から開始されました。
技能者は本人情報や保有資格、社会保険加入状況を登録します。事業者は商号や所在地、建設業許可情報、技能者情報などを登録します。
技能者はカードを取得し、現場に設置されたカードリーターにかざすと日々の就労履歴が蓄積されます。
建設キャリアアップシステムが目指すものとは?
建設キャリアアップシステムの目指すものを3つ解説します。
1.未来の技能者を育成する
就業者人口の減少は、日本全体の課題です。建設業において若年層の入職を進めるには、建設業の処遇が他の産業に比べても魅力的であることを示していかなければなりません。
かつて建設業には、個々の技能者のスキルが統一的に評価できるシステムがありませんでした。スキルの向上を処遇の向上に繋げる役割を担うのが建設キャリアアップシステムです。
技能者の情報を建設業界統一のルールで登録・蓄積し、技能者の力量をいくつかの段階に分けます。客観的な評価によって技能者の処遇や環境の改善を目指します。
2.技能者のスキル・キャリアの見える化
同システムでは「能力評価制度」を設けています。能力評価制度とは、技能者の力量を4段階に分けて評価するものです。
カードの色分けによって、実力を証明しやすくなります。また若い技能者にとっては目標が明確化しモチベーションアップに繋がります。
段階ごとにカードの色分けがあります。
【カード色によるスキル区分】
- レベル1:ホワイト
- レベル2:ブルー
- レベル3:シルバー
- レベル4:ゴールド
カードの色分けによって、実力を証明しやすくなります。また若い技能者にとっては目標が明確化しモチベーションアップに繋がります。
35職種でそれぞれ4つの基準が設けられています。例えば、電気工事の評価基準は以下の通りです。
(「能力評価基準【電気工事】」国土交通省をもとに作成)
スキルやキャリアなどのデータがシステムで一括管理・蓄積されていくので、仕事に復帰した場合も今までのキャリアを引き継げます。
3.建設事業者の事務効率化
建設キャリアアップシステムによって、書類事務の負担が軽減されます。
データがオンラインで記録されるので、作業員名簿や施工体制台帳を容易に作成できます。
作業員名簿から技能者の保有する資格や、保険の加入状況を確認できます。現場に入場する技能者の情報をスムーズにチェックが可能です。出面情報も記録・蓄積され、休暇の取得情報も把握しやすくなります。
建退共事務が同システムで完結する点も特徴です。
システムに蓄積された就労履歴データを建退共が提供するツールを読み込み、元請業者に請求書類などを簡単に作成し、業務効率化に繋がります。
建設キャリアアップシステムの導入で変わること
建設キャリアアップシステムの導入で変わることについて、事業者と技能者それぞれの目線で解説します。
事業者側の変化
【1.現場管理の効率化】
ビルや道路などの現場状況や技能者の就労状況をシステムで一括管理できます。
また工事完了後でも、各技能者がどの現場で業務をしていたのか確認が可能です。
【2.技能者の技能経歴を確認・PRできる】
技能者の保有する資格などが登録される建築キャリアアップシステムでは、技能者の情報を容易に確認できます。
事業者が技能者を採用する際に、就労履歴や資格取得の情報を簡単に確認が可能です。
事業者ごとの技能者の施工力を確認できるので、元請け業者が技能者の情報をチェックし、優秀な技能者を雇用する事業者の選定にも役立ちます。
【3.入札で優遇される】
公共工事への入札で、同システムの導入を行った業者を評価する自治体が増えています。
すでに福岡県では、競争入札参加資格審査の地域貢献活動評価項目で「建設キャリアアップシステムの事業者登録をしていること」を加点対象としています。
入札で同システムを優遇する動きは、全国に広がっています。
建設キャリアアップシステム(CCUS)を公共工事の企業評価に活用していたり、活用を検討している都道府県が39都道府県に上っていることが、国土交通省の7月時点の調査で分かった。
(「CCUSを評価 都道府県8割で導入へ 建通新聞 2020年7月13日」から抜粋)
公共工事の企業評価については、各都道府県のホームページで確認してください。
技能者側の変化
【1.適正な処遇を受けられる】
技能者のさまざまな情報を蓄積できる建設キャリアアップシステムは、今まで把握しにくかった技能者の保有する資格や就労日数が可視化されます。可視化されたデータをもとに、適正な処遇を受けられます。
【2.キャリアアップの目標が明確化する】
力量に応じて、4つの段階に分けられる「能力評価制度」があります。職種によって基準が定められており、迷わずに自身のキャリアアップに努めることができます。
【3.適切に退職金が受け取れる】
従来の仕組みでは、証紙の受け取りや貼り付けが手作業で行われ、正確な証紙の発行が行われていませんでした。
同システムでは、ICカードを現場に設置されているカードリーダーにかざすだけで、就労日数が記録されます。記録されたデータに応じた証紙の枚数が正確に計算され、適切に退職金が受け取れます。
建設キャリアアップシステムの課題とは?
建設キャリアアップシステムの課題もあります。
登録者数の伸び悩み
建設キャリアアップシステムを運営する建設業振興基金は、運用開始から1年後(2020年3月末)の技能者登録数の目標として100万人を掲げていました。
しかし2020年3月末の時点ではおよそ22万人(※1)、2021年1月末時点ではおよそ46万人(※2)です。当初の目標よりも大きく下回る結果となっており、運営側と現場の温度差が表面化しています。
※1 出典:「建設キャリアアップシステム 都道府県別登録数について(2021年1月31日)」一般財団法人建設業振興基金
※2 出典:「建設キャリアアップシステム 都道府県別登録数について(2020年3月31日)」一般財団法人建設業振興基金
利用料金の値上げ
システムを運営する一般財団法人建設業振興基金が、大幅な赤字が発生していることを明らかにしました。
2019年度末の累積赤字はおよそ57億円、2020年度末には100億円の赤字が見込まれるということです。
原因として、収支バランスの乱れが挙げられます。登録料などの料金設定が低い一方、コールセンターの拡大によってコストが増大しました。
また、定期的に収支状況や課題の対応が共有されなかったことも赤字運用に陥った原因と見られています。
上記の現状を踏まえて、2020年10月から値上げがスタートしました。改定された料金は以下の通りです。
【現場利用料について】
(「建設キャリアアップシステム運営協議会 第6回総会 一般財団法人建設業振興基金」をもとに作成)
上記の料金は全て事業者が支払います。
「現場使用料」は、現場で行われる技能者の就労履歴情報の登録回数に対する利用料金のことです。
現場に入場する技能者の人日単位の料金を事業者が支払います。
ID利用料とは、事業者情報を管理するために不可欠な管理者IDに対する利用料です。
事業者登録料は資本金によって料金が異なります。事業者登録料の詳細は以下の通りです。
【事業者登録料一覧】
【技能者登録料一覧】
※技能者側には料金の改定はありません。ただし2021年4月から技能者の登録方法が変更されます。
2段階登録方式の登録内容は以下の通りです。
詳細型登録:保有資格・労災保険特別加入の有無・研修受講履歴・表彰履歴
現場からは厳しい声
令和2年に全国建設業協会がアンケートを実施。建設キャリアアップシステムを活用している現場に、メリットがあるかどうか聞いたところ次のような回答結果になりました。
メリットがある:26%
メリットがない:74%
(「CCUSモデル工事に係るアンケート結果について 全国建設協会」をもとに作成)
7割の現場がメリットを感じないと回答しています。
同システムについて、現場から以下の声も寄せられました。
(「CCUSモデル工事に係るアンケート結果について 全国建設協会」をもとに作成)
普及に時間がかかっている建設キャリアアップシステムですが、登録手続きを手短に行えることが求められるでしょう。
まとめ:建設キャリアアップシステムは今後義務化の動きも、早めの対応を
今回は建設キャリアアップシステムについて解説しました。
国土交通省は、2023年度から建設キャリアアップシステムの義務化を予定しています。義務化の直前に慌てて手続きすることがないように、早めの登録を行いましょう。